Research

京大推進研

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(新規材料加工・機能素子創製のための先進的プラズマプロセス技術)
(概要)
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宇宙工学とマイクロ・ナノ工学は親和性のよい、有用な組み合わせです。近年、世界中で宇宙マイクロ・ナノ工学の研究開発が熾烈であり、宇宙機の小型化もマイクロ・ナノ工学の主要なターゲットです。
 
宇宙工学とマイクロ・ナノ工学は親和性のよい、有用な組み合わせです。近年、世界中で宇宙マイクロ・ナノ工学の研究開発が熾烈であり、宇宙機の小型化もマイクロ・ナノ工学の主要なターゲットです。
  
===次世代超小型・高機能衛星“シリコンナノサテライト”===
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===次世代超小型・高機能衛星 “シリコンナノサテライト”===
 
[[画像:超小型人工衛星.jpg|thumb|350px|超小型人工衛星(ナノサテライト)概念図]]
 
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本研究では、まずスラスタに関して、これまで推進機には用いられることのなかった表面波励起プラズマを利用して次世代の超小型・高機能衛星に搭載可能なマイクロスラスタの研究開発をおこなっています。
 
本研究では、まずスラスタに関して、これまで推進機には用いられることのなかった表面波励起プラズマを利用して次世代の超小型・高機能衛星に搭載可能なマイクロスラスタの研究開発をおこなっています。
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===新規材料加工・機能素子創製のための先進的プラズマプロセス技術===
 
===新規材料加工・機能素子創製のための先進的プラズマプロセス技術===

2011年7月22日 (金) 20:38時点における版

プラズマ・宇宙・半導体
誘導結合型プラズマ

航空宇宙機の推進に関連する作業媒質である 電離気体(プラズマ) に関する基礎研究並びに応用研究をおこなっています。それらの力学的性質と共に、構成要素である原子分子やイオンの気相中での反応過程並びに固体表面との相互作用に関する研究にも重点を置いています。

現在の主な研究課題

  1. 化学反応を伴う電離気体 (反応性電離気体) の電磁場下での基本的性質の解明と制御
  2. 電離気体・反応性気体と固体表面および表面の微細構造との相互作用の機構解明と制御
  3. 先進的プラズマプロセス技術の開発
  4. 先進的プラズマ・イオン源の開発
  5. 荷電粒子の加速とビーム伝播
  6. プラズマ・イオンスラスター
  7. マイクロ・ナノテクノロジーに関する研究

等です。これらの研究では、実験を主体として数値シミュレーションを併用し、航空宇宙工学に加え広く先端技術における工学的諸課題も対象としています。


目次


概要

宇宙開発とマイクロ・ナノ工学

宇宙開発において、人工衛星などの宇宙機の材料やその搭載機器の小型化・軽量化・低消費電力化・高信頼性化は、多種多様なミッションの遂行という観点からも、経済性の観点からも、非常に重要です。

宇宙工学とマイクロ・ナノ工学は親和性のよい、有用な組み合わせです。近年、世界中で宇宙マイクロ・ナノ工学の研究開発が熾烈であり、宇宙機の小型化もマイクロ・ナノ工学の主要なターゲットです。


次世代超小型・高機能衛星 “シリコンナノサテライト”

超小型人工衛星(ナノサテライト)概念図

近年宇宙工学では、質量が10kg以下、または1kgを切るようなナノサテライトと呼ばれる超小型衛星の研究開発が盛んになっています。このような衛星の小型化による大きな利点は以下のようなものが挙げられます。

  1. 衛星の構造を簡素化することで製作時間を大幅に短縮することが可能になります
  2. 小型ロケットで1度に複数個打ち上げたり、大型ミッションの便乗ペイロードとして打ち上げたりすることで現在の打ち上げコストを劇的に下げられます
  3. 複数の小型衛星を組み合わせることによりミッション全体の信頼性を向上させることができます

特に 3 に関しては、これまでにない新しい概念のミッションも可能になります。

例えば、複数の小型衛星に異なる機能を持たせれば、別の衛星を追加することでそのシステムを変更することが可能になり、また、そのうち1つが壊れた場合にもその衛星を交換することでミッションの継続が可能となります。

このように、衛星の小型化がもたらす利点は非常に大きなものですが、1kg以下のナノサテライトでは、重量、体積、消費電力などの節約が極めて厳しいた め、現行の衛星に利用されている技術の単純なスケールダウンによる小型衛星の開発は難しく、これまでにない新たな技術を必要とします。衛星の推進、姿勢・ 軌道制御に必要なアクチュエータ、いわゆるスラスタもその例外ではなく、化学推進、非化学推進の枠に捕らわれない新たな推進機の開発が要求されます。


このような背景の下、特に、シリコンナノサテライトに注目しています。

シリコンナノサテライトは、マイクロエレクトロニクスとMEMS(マイ クロエレクトロメカニカルシステム)の混載デバイスの1つともいうことができ、衛星に必要な電子的・機械的な機能のほとんど全てを1~2枚のシリコン基板 上に作り込んで超小型・高機能衛星を構成するものです。

シリコンはアルミニウムと同等かそれ以上の強度、比重、熱伝導を有し、半導体だけでなく、衛星の構成材料としても優れているといわれます。さらに最近ではMEMSの材料としても用いられ、従来のシリコン半導体プロセスを駆使できることも利点です。

本研究では、まずスラスタに関して、これまで推進機には用いられることのなかった表面波励起プラズマを利用して次世代の超小型・高機能衛星に搭載可能なマイクロスラスタの研究開発をおこなっています。


新規材料加工・機能素子創製のための先進的プラズマプロセス技術

プラズマによる材料加工・新規材料創製

情報化社会の高度化に伴い超大規模集積回路(ULSI)の集積度は増大し続けています。その変遷の中、ULSIデバイス作製(微細加工・形成技術)において中心的役割を担うプラズマプロセスの高精度化は重要なテーマです。

次世代ULSIに登場する高誘電率ゲート絶縁膜材料やゲートメタル電極材料などをナノメートル精度で成形する微細加工技術をはじめ、超高速演算処理プロ セッサ作製において重要な技術となる低誘電率材料薄膜形成技術など、未来社会を担う情報処理素子を実現するための研究開発をおこなっています。

そのためには、プラズマプロセス中での、MEMS、ULSIデバイスの表面・界面の反応機構を解明することも重要です。例えば、プラズマを構成するイオン、電子との相互作用により、ULSIデバイスの信頼性が著しく低下することが知られています。プラズマからなる宇宙空間を航行する衛星の構成材料においても同様です。新しい光学的・電気的表面・界面解析技術やミュレーション技術を駆使し、ナノスケールでのプラズマとそれら機能素子表面・界面との反応機構の解明を探求します。

また、半導体微細加工には反応性プラズマが用いられますが、このプラズマは既存の材料を加工するのみならず、これまでにない全く新しい材料を生み出す可能 性をも秘めています。ちょうど宇宙空間でこの地球という天体が生まれたように、プラズマという媒質中でこれまでに見たことがないものが生成されるのです。


研究テーマ紹介

ナノサテライトを想定したマイクロプラズマスラスタ
Y. Takao et al., Pure Appl. Chem. 80 (2008) 2013

ナノサテライト用の新型スラスタ(推進器)の研究開発


FTIRによる基板表面診断

右図はシリコンの面方位 (111) の基板をICPによる塩素プラズマでエッチングし、FT-IR (フーリエ変換赤外吸収分光法) を用いて分光測定した結果です。実験装置としては ICP (誘導結合プラズマチャンバー)を用い、パラメータはガス流量 20 sccm, 圧力 20 mTorr, ソースパワー 450 W, バイアスパワー 0-30 W, 分解能 4 cm-1, FT-IR走査回数 2000 回です。FT-IRで測定しているのは反射光の強度で、図に示しているのは吸光度 (エッチング前の基板を測定した結果をエッチング後の測定結果で割って対数をとったもの) です。この測定により知りたいことは基板表面にどのような粒子があるかであり、ピークが得られた波数 (wavenumber) から存在する粒子を同定することが本研究の目的です。
Absorbance.png



粒子モデルを用いたプラズマ気相の数値解析

2次元の粒子モデル(PIC/MC: particle-in-cell/Monte Carlo)を用いて容量結合型高周波プラズマの数値解析を行っています。容量結合型のプラズマ源は、大口径のウェハを均一に加工することができる利点を有しています。本研究では、プラズマ密度・温度・ポテンシャル分布のほか、基板へ入射するイオンのエネルギー・角度・フラックス等を算出しています。右図は、本研究で取り扱っているプラズマ源の概略図と、ポテンシャル分布の計算結果を示しています。電極付近にきわめてポテンシャルドロップが大きい領域(シース)の存在が見てとれます。
Chanber.png Potential.png



Si エッチングのモデリング・シミュレーション

原子スケールにおけるプラズマ・Si 表面相互反応の理解のため、当研究室では独自に原子スケールセルモデル(Atomic-Scale Cellular Model:ASCeM)を開発しています。本モデルでは、被エッチング表面を、基板 Si 原子1個を中央に含む矩形の微小セルに分割するとともに、パターン内(Vacuum)も同じ大きさの矩形セルに分割して、表面/界面移動を取り扱います。粒子輸送、表面反応過程にはモンテカルロ法を用い、イオンの散乱や内部への侵入はでは、入射イオンと基板原子との間の二体ポテンシャルにもとづき、入射イオンの基板原子による古典的な弾性衝突過程を連続的に計算し、表面反射や内部への侵入を表現しています。Cl2 プラズマによる Si エッチングで特徴的なマイクロトレンチや RIE ラグ・逆 RIE ラグ等の特異形状の形成には、中性活性種のフラックス量と入射イオンフラックス量が大きく関係していることを突き止めました。本モデルを使った解析により、側壁隣接したパターン底面では、パターン側壁でのイオン散乱により、入射イオンフラックスが増大し、マイクロトレンチが形成され易くなる一方で、中性活性種が十分存在する場合、イオンアシスト反応によるエッチング速度が増大し、マイクロトレンチ形成と逆 RIE ラグに至ることを示唆しています。

Fig1 tsuda.png



O2 添加時における残渣発現メカニズム解明

ASCeM は、従来のシミュレーションモデルでは再現しにくい鋭い残渣形状(剣山状の形状)や nm スケールの表面ラフネスの形成メカニズムを詳細に解析することが可能です。右図は、酸素を付加した条件において、粒子輸送における幾何学的シャドーイング効果により、表面ラフネスがより発達する様子を示しています。酸素流入が増えると、パターン底面の局所表面酸化により、残渣(マイクロピラー)が顕著に発現します。各残渣の上部は(凸部)の表面には O 原子が多く存在し、イオン入射によるエッチング/スパッタリングが抑制されるが、残渣の下部(凹部)の表面では、中性シャドーイング効果に起因して O 原子が少なく、イオン入射によるエッチング/スパッタリングが進行して残渣形状が発達することがわかりました。

Fig2 tsuda.png



3次元原子スケールセルモデル (ASCeM-3D)

原子スケールにおけるプラズマ・Si 表面相互反応の理解のため、これまでの 2次元モデルを改良して、奥行き方向の形状解析を可能とする 3次元原子スケールセルモデル(Three-Dimensional Atomic-Scale Cellular Model:ASCeM-3D)を新たに開発し、Cl 系プラズマによるSi エッチング 3次元形状進展シミュレーターの高精度化を図っています。ASCeM-3D はセル・リムーバル法を使った当研究室独自のモデルであり、従来のシミュレーターでは再現しにくい残渣形状や nm スケールの微小な表面ラフネスの形成メカニズムを詳細に解析することが可能です。

  • H. Tsuda, et al., Jpn. J. Appl. Phys. (2011) in press.
Fig3 tsuda.png



大規模スケール分子動力学 (MD) 法

分子動力学(Molecular Dynamics)法を駆使し、Cl2/O2 混合プラズマによる Si エッチングにおける表面反応を追跡しています。これまでの研究により、O 原子は Si 基板原子と強く結びつき、また Si 表面上に局在する傾向があり、そのことが、微小な表面ラフネス形成を引き起こす要因となることを突き止めました。 この微小な表面ラフネスは、さらに大きなスケール(ナノ~マイクロオーダー)のラフネス形成を誘発すると考えられ、今後のデバイス開発においては、こうした微小な表面ラフネスの正確な制御が強く要求されます。

Fig4 tsuda.png